プロジェクト 貨幣研究 第一回

古田史学会報
1999年 4月 1日 No.31


プロジェクト 貨幣研究 第一回

古田武彦

 『多元 二九』<一九九九・二月>にのべたように、今回の富本銭の出土(奈良・飛鳥池遺跡)によって大きな研究テーマにぶつかった。「未知の『貨幣』への関心をさらに深めた。ゆっくりと第一歩から学びはじめたい。」(「曲水の宴--『富本銭』の論証--」)と書いた通りだ。
 だが、興味は急速にふくらむ。未知の分野のせいか。面白くてしょうがない。しかし、全くの一年生、いや幼稚園児だから、貨幣にくわしい方々の御教示をえたい、と思っていたところ、幸いにこの「プロジェクト」が企画された。有難い。人数は、五人。事務上の簡素さから限定。けれども、もちろん情報は公開、当然の精神である。

 貨幣研究論文は、数多い。たとえば、

(一)内田銀蔵「日本古代の通貨史に関する研究」(『日本経済史の研究』上巻)「貨幣の研究」(同上、下巻)(いずれも『内田銀蔵遺稿全集』<一八九八及び一九二一>

(二)弥永貞三「奈良時代の銀と銀銭について」
(『日本古代社会経済史研究』一九八〇)

(三)田中卓「銀銭」(続日本紀研究一−九)

等、著名である。

 最近のものでは、朝日選書から

 東野治之『貨幣の日本史』(一九九七)
 三上隆三『貨幣の誕生』(一九九八)

と相続いて刊行。他にも、多い。一つ、ひとつ、ゆっくりと味読する。楽しみだ。

 何より、抜群の好著がある。

 栄原永遠男『日本古代銭貨流通史の研究』(塙書房、一九九三)
 同氏『奈良時代流通経済史の研究』(同書房、一九九二)

 前著には、付編として「日本古代銭貨出土一覧表」がある。珠玉の労作である。

*      * *
 以上のように、おびただしい研究が「質と量」ともに累積されているのに、何がわたしを引きつけるのか。一言に尽きよう。

 「もし、一元史観<近畿中心主義>によって必要にして十分な“経済史”や“流通史”が、描き切れていたとしたら、多元史観は無用、かつ誤謬である。そしてこの逆の命題もまた、当然成り立つ。」

 これだ。「毎日日曜」の身を、今ほど有難いと思ったことはない。
(万葉や新撰姓氏録、新撰万葉集、中国詩文等も、また同じ。)

 今回は、二つの資料を提出したい。

1. 「富本銭について」(『奈良国立文化財研究所学報第四六冊、平城京右京八条一坊十三十四坪、発掘調査報告』奈良国立文化財研究所、一九八九)
 これに「年輪年代測定法による出土木製品の年代」共載。

2. 「厭(えふ)勝銭」(『宣和博古圖』三十巻、宋、王 等奉勅撰、収録)
 日本の古代貨幣(銭貨)研究史上、“通用”されている「厭勝銭」論議を再検証し、用語概念を厳正にする一助として。

以上

一九九九、三月三日午前十二時五十分、記了。

〔追補〕
 原三正『日本古代貨幣史の研究』(ボナンザ<東京都中央区日本橋二丁目十六−四>刊、昭和五三)は医業のかたわら物された力作。(倉敷市在住。大正五年生。)

【編集部】
 この度発足したプロジェクト「古代貨幣研究」のメンバーからは定期的に報告がなされる(三ヶ月毎)。随時、本報にて掲載し、紹介していきたい。


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プロジェクト「古代貨幣研究」第一報 古代貨幣異聞 京都市 古賀達也

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