日本書紀の中で、最も例外的な記述をしているのが、巻二十八「天武紀上」である。ほとんどを壬申の乱の記述に費やし、まるで戦争日誌の如く詳細を極め、異彩を放っている。
その内容を精査すると、実に天馬のスピードで進撃している。軍馬・競走馬のプロが、天武軍の馬の行程について分析した論文によると、天武紀では女性を含む馬の素人が、軍用でない商用の馬に乗って、ありえない速度で進軍する。まして当時の馬格は現代よりはるかに劣っていたのである。壬申紀の記述はどうも信用できず、編纂者の作文といわざるをえない。
『壬申大乱』(東洋書林)