古賀達也の洛中洛外日記
第510話 2012/12/29

歴博学芸員・李陽浩さんとの問答

 先日、大阪歴史博物館を訪問しました。三度目の訪問です。二階のなにわ歴史塾で前期難波宮のことなどを教えていただくのが目的です。今回の「相談員」は同館学芸員の李陽浩(リ・ヤンホ)さん。建築学・建築史が専門の考古学者で、前期難波宮についてとても詳しい方で、何を聞いてもただちに発掘調査報告書を提示して、懇切丁寧に説明していただきました。
 今回の質問も前回と同様で、須恵器編年において、1様式の継続期間が平均30年と小森俊寛さんの著書にあるが、それは考古学者の間では「常識」なのか、もしそうであればその根拠は何かというものでした。李さんは小森さんの著書とこの説についてよくご存じで、次のような回答がなされました。
 須恵器1様式の期間が20〜30年とは一般的にいわれている見解ですが、厳密にいうと、新たな様式が出現する「周期」が約25年程度ということで、その様式が何年続くかは個別に異なるということでした。すなわち、ある様式が発生し25年ほどたつと新様式の土器が出現しますが、それにより前様式の土器が地上から消えてなくなるわけではないということでした。また、土器様式の寿命はそれほど短くはないともいわれました。
 この説明なら、なるほどよくわかります。その上で、李さんが何度も強調された言葉に「クロスチェック」が必要、というものがありました。土器の相対編年だけでは、土器発生の先後関係がわかるだけなので、絶対年を決定するさいには、土器様式相対編年以外の方法や原理に基づいた別の根拠による「クロスチェック」が必要ということです。
 具体的には、年輪年代測定や干支木簡、あるいは文献との整合性で「クロスチェック」しなければならないということでした。これは、古田先生が主張されている「シュリーマンの法則」と同じ考え方で、考古学出土事実と文字史料などによる伝承とが一致すれば、それは史実と見なしうる、あるいはより真実と考えられるという方法です。
 このデータのクロスチェックという方法は自然科学では当然のようになされる基本作業なのです。たとえばわたしの専門の有機合成化学であれば、実験データだけではなく、その合成方法も記載しなければ学術論文として認められません。なぜなら、合成方法が明示されていれば、他の化学者により実験データが正しいかどうか「再現性試験」が可能だからです。そして、その再現試験結果データと論文のデータがクロスチェックされ、その論文が正しいかどうか判断されるわけです。
 自然科学では当然とされる「クロスチェック」が、考古学編年においても必要であるというのが李さんの返答の核心でした。この点、小森さんの論文は土器様式の相対編年のみで、他の方法に基づいたデータとのクロスチェックがなされていないと批判されました。その上で、前期難波宮整地層の土器編年は水利施設出土木わくの年輪年代(634年)などによるクロスチェックを経ており、前期難波宮が七世紀中頃の造営であることは動かないとのことでした。
 ちなみに、前期難波宮水利施設出土木わくの年輪年代(634年)については、2000年に出された「難波宮趾の研究・第11」(大阪市文化財協会)で報告されていますが、その後(2005年)に出された小森さんの著書『京から出土する土器の編年的研究』には、どういうわけかこの水利施設出土の年輪年代の報告については触れられていません。(つづく)


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