古賀達也の洛中洛外日記
第776話 2014/08/29

女王の国

 今日は大阪市で開催されたアラン・スィフト先生(Dr.J Alan Swift)の来日記念講演会(A personal journey investigating the chemistry and structure of human hair:毛髪の構造と化学研究にかかわってきた人生を振り返って)を聴講しました(主催:繊維応用技術研究会)。スィフト先生は毛髪やウールの構造解析研究における世界的な研究者で、イギリスのリード大学におられ、マンチェスター生まれとのこと。このたび50年ぶりに奥様とご一緒に来日されました。
 講演ではきれいな発音でゆっくりと話されたのですが、事前に配布されたレジュメやプロジェクター画像と通訳がなければ、わたしの英語力ではとても理解困難な学術講演でした。講演会後の懇親会ではご挨拶させていただきました。わたしのへたくそな英語が通じて、ホッとしました。
 今、スィフト先生の母国イギリスではスコットランドの独立運動が進められており、独立の是非を住民投票で決められるとのこと。分離独立が平和裏にルールに基づき住民投票で決められ、その結果を分離独立される側(UK、イングランド)も尊重し、受け入れるというのですから、さすがは民主主義のお手本のような国で、尊敬できます。このようなことは人類史上でも珍しいことでしょう。
 こうした平和的ルールに基づいて独立が認められる世界になれば、国際紛争はかなり減るのではないでしょうか。人類がそのような精神文化を獲得するに至るまで、あとどのくらいかかるのでしょうか。近年のロシアや中国の行いを見ると絶望感にとらわれますが、今回のスコットランドのような例を知ると、一縷の希望も見えてきそうです。
 女王陛下の国も「ブリテンの大乱」とも言うべき状況です。『三国志』倭人伝によれば倭国は卑弥呼を共立することにより、内戦を収束させ女王国として安定したようですが、西洋の現代の女王国はどのようになるのでしょうか。興味津々です。
 わたしはイギリス史は詳しくありませんが、イングランドとスコットランドが不仲なのは知っていました。各国の国歌の歌詞を調べたことがあるのですが、イギリス国歌(法律で決まっているわけではないようです)「ゴッド・セイブ・ザ・クィーン(キング)」の六番の歌詞になんと次のようなものがあるのです。
「激流の如きスコットランドの反乱を打ち破らん」
 スコットランド人にしてみたら、こんな歌詞が国歌にあったら、それはいやでしょうね。独立したいという気持ちもわかります。わたしたち日本人の感覚では非常識な歌詞です。たとえば「君が代」の歌詞に「九州や北海道の反乱を打ち破らん」があることなど考えられないからです。
 ところが今回調べて知ったのですが、スコットランド人も負けていませんでした。なんと事実上の「スコットランド国歌」とされているものがあり、その歌詞に繰り返し次のようなフレーズ出てくるのです。

 スコットランド国歌「スコットランドの花」 (Flower of Scotland)
「エドワード軍への決死の戦い 暴君は退却し 侵略を断念せり」

 このエドワードとはイングランド王の名前です。イングランド国王を「暴君」と呼び、「侵略」を断念させたと、スコットランドでは歌われるのです。ここまで双方が相手側を「国歌」でののしりあうのですから、分離独立というのもわからないこともありません。ただ、イギリス国歌は問題の六番は実際には歌われないときいています。
 西洋の女王国はこれからどうなるのでしょうか。仮にスコットランドが独立しても仲良くしていただきたいものです。そして民主主義のお手本を全世界に示していただきたいと願っています。


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